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落語に、『唐茄子屋政談』という噺があります。
ある大きな商家の若旦那が酒色に溺れ、
あまりの素行の悪さに、親から勘当されてしまいます。
若旦那は「お天道様と米の飯はついて回る!」と啖呵を切って家を出ますが、
今までちやほやしてくれていた遊女や盛り場の人たちは
金の切れ目が縁の切れ目とばかり、
手のひらを返したように冷たくなります。
すぐにやってきた孤独とひもじさの中で、彼は
「お天道様はついて回るが、米の飯はついて回らないなあ」と絶望し、
橋の欄干から川へ身を投げようとします。
そこに偶然、親類のおじさんが通りかかるのです。
彼はおじさんに必死にすがりつき、
文字通り「死んだつもりになって」心を入れ替えることを約束し、
助けてもらえることになりました。
若旦那はその翌日から、おじさんの命令で
「唐茄子」すなわちカボチャを、
天秤棒を担いで売り歩く商売をやらされるのでした。
そのあと、彼は商売の最中にある事件に巻き込まれて大活躍を見せ、
最後にはおじさんの取りなしで無事、実家に戻るのですが、
この話はかなり長いので、途中で端折って演じられることが多いようです。
端折らずに語られるのは冒頭の部分、
若旦那が遊びほうけて親に勘当され、死ぬ思いをしたあとに心を入れ替えて、
ゼロから再出発をする、という、その感動的なシーンです。
身から出た錆で大失敗をしたあとに、一から出直す、という物語は、
私たちの心の深い部分に、よくなじみます。
この下半期の牡羊座が「若旦那」のような運命をたどる
ということが言いたいわけではありません。
ただ、この物語の中にある、
「若々しい独立心」と「社会から自分を守る力」の関係の再構築、
というテーマは、この時期の牡羊座の世界に、重なる部分があるようです。
たとえば「反抗期」はその代表ですが、
2011年頃から、牡羊座の人たちは、
言わば「反抗期」の中にいる自分を、
感じ続けてきたのではないでしょうか。
自分自身の力を試したい、人に頼らずに生きてみたい。
自分というものを世の中に認めさせたい、
たくさんの人の中に紛れ込んでしまうのはいやだ。
そんなふうに、自由と独立、新しい自己の発見を目指して歩く時間が、
2011年頃から、牡羊座の世界に流れていると思うのです。
この流れに沿って、まったく新しい世界に飛び込んだ人もいるでしょうし、
環境が様変わりしたり、人間関係が激変した人も少なくないはずです。
2013年の下半期は、そんな「自由と独立」を目指すあなたの前に、
「自分を守る力」「切っても切れない関係」が
どーんと立ち現れるような流れが生じます。
これは、若旦那の窮地に「偶然」現れたおじさんの存在に通じます。
離れよう離れようとしていたのに、どこかで出てきて守ってくれる力。
脱出しようと思って否定した場所から、改めて受けとらなければならない恩恵。
こうしたものは、なかなか「意志を持って選ぶ」ことができません。
家族や地域コミュニティなどはその代表で、
自分が生まれたときからすでに、自分自身に深く関連づけられています。
私たちは成長の過程で、一旦こうしたものから離れていきますが、
年齢を重ねるとまた、幼い頃とは違った形でそれらと関わるようになります。
脱出したはずの場所に戻り、その場所との関わりを再度、構築する。
このプロセスを、2013年下半期から2014年上半期にかけて、
牡羊座の人たちは経験するだろうと思うのです。
時期的なことを少し申しますと、
まず、7月から8月、日ごろ自分を取り巻いている環境や、
身近な人たちの生活が大変化しそうなタイミングです。
引っ越しやリフォーム、家族構成の変化など、
「いつもの風景」が様変わりしそうな気配があります。
あるいは、このタイミングで計画がもちあがり、
ここから一年ほどの中で、それを実行に移す人も多いでしょう。
8月は特に、社会的な立場の変化と、身近な環境の変化とが
連動したり、影響を及ぼし合ったりして動いていく気配があります。
9月はとても楽しい季節となりそうです。
人間関係において前向きな展開が期待できますし、
やりたいことに思い切ってチャレンジできる条件が整います。
その一方で「念願が叶ったときの『現実』」に直面する、
というテーマも生じます。
夢は、外から見るのと中に入ってやるのとでは、大いに違います。
夢が現実となったときのギャップを受け入れるところから、
本当に「願いが叶う」プロセスがスタートするわけです。
10月から11月は、誰かの人生と自分の人生の、
のっぴきならない結びつきを実感することになるかもしれません。
自分の意志とタイミングだけで自由に動くのではなく、
誰かの準備や反応を待ってから動く、という場面も多そうです。
そこに、かけがえのない価値があることに気づかされるでしょう。
11月以降、キラキラした面白いチャンスが巡ってきそうです。
このチャンスの雰囲気は、年をまたいで早春まで続きます。
12月以降、パンチの効いた交渉事がスタートするかもしれません。
持ち前のストレートな自己主張の力を活かせます。
年末、自分を守るいくつかの力を実感することができます。
人の力を借りる胆力のようなものを試される時期です。
愛情関係については、
自分の「傷つきやすさ」を認めるところから出発できます。
誰もが心の奥に傷つきやすさを抱え、それを厳重に守り隠しています。
でも、愛の世界においては、そうした傷つきやすさを
「完全に隠しておく」ことは不可能です。
むしろ、そうした傷つきやすさをむきだしにしないと、
愛は生まれない、というところがあります。
この時期、あなたは自分の「守られなければならない部分」を
深く自覚することになるのではないかと思います。
そこから、愛が始まっていくのだろうと思います。
愛について大きな追い風が吹くのは、
実は、2014年の初夏から2015年にかけて、なのですが、
今フリーの人は、出会いが今年の下半期に巡ってくる可能性も
十二分にあると思います。
時期的には、7月から9月いっぱいまで、
たくさんのきっかけやチャンスに恵まれるでしょう。
12月以降は、気持ちをぶつけ合いながら
刀剣を鍛えるように絆を鍛えていく時期に当たっています。
この時期は粘り強さが何よりも大切です。
愛の成就を目標としている人にとっては、この冬から翌年にかけて
強い意志と情熱によって、結果を出すことができるときです。
今ある関係を疑問に感じている人にとって、
今年の12月から来年の7月という期間は、
本気で渡り合って関係の是非をたしかめる「正念場」となり得ます。
誤魔化しやなれ合いには終わらない真剣勝負のタイミングです。
私たちは、何でも「自分の意志で選択できる」と思いがちですが、
実際は、人生の大部分が「選びようがないこと」でできています。
生まれてくる場所も環境も、容姿や才能や体質も、親や親戚も、
すべて、選ぶことはできません。
また、趣味嗜好、野心の強弱、愛情の形なども、やはり
自分で好きなようにつくるということができません。
私たちは、人生のどこかで、
そんな「自分で選びようのない世界」から全力で脱出しようと試み、
そして、いつか、その世界に不思議な形で戻ってきます。
この「戻ってくる」という道のりこそが
「愛」と呼ばれるものの正体なのではないかという気がするのです。