アーカイブ記事
17世紀のドイツに生まれたある学者は、
時代の荒波に揉まれ、
ヨーロッパ各所を転転とすることを余儀なくされました。
流浪の人生が30歳を超えた頃、
ひょんなことからローマに入ったところ、
そこに思いがけなく居場所を得て、
79年の生涯を終えるまで終生ローマに留まり、
研究に励み、名をなしました。
この物語を読んだとき、私たちは
彼がローマにたどり着いた瞬間について
「とうとう、居るべき場所に帰着したのだな」
という印象を抱きます。
ドイツ生まれの彼にとってはもちろん、
ローマは「異国の地」でしかないはずです。
なのに、何故かその場所が
彼にとっての「帰るべき場所」であり、
「約束の地」のようにも思われるのです。
それは無論、
私たちがその後の彼の人生、
すなわち
「漂泊の30年を終えて、
死ぬまで40年以上ローマに留まり、
根を下ろして活躍した」
という事実を知っているからです。
リアルタイムで生きている本人にとっては、
ローマという場所が「約束の地」なのかどうかは、
たぶん、よくわからなかったかもしれません。
時代の大きな動きによっては、
またそこをたたき出される可能性だって
ゼロではない、と思えていたかもしれません。
とはいえ、結果的に、
彼にとってはそこが「終着点」になりました。
彼がローマに着いたとき、その長い旅は終わり、
自分の王国にたどりついたのです。
「ふるさと」と言えばもちろん、
自分が生まれ育ったような場所を意味します。
ですが、
人間の人生というものを全体的に捉えたとき、
私たちは「帰り着く場所」を
件の学者にとってのローマのように、
独自の形で持っているものなのかもしれません。
2017年の終わり頃から、
あなたはそんな「帰り着く場所」のイメージを
胸に抱いてきたのではないでしょうか。
あるいは2018年の秋頃から、
そうした場所を目指して、
歩き始めているのかもしれません。
もし、あなたにも、
件の学者にとってのローマのような場所があるとしたら、
2020年頃までには、
その場所にたどり着けるようです。
とすると、
2019年はそこに向かう道のり
というイメージが当てはまります。
もちろん、この先の長い人生の中で
あなたが一切引越などをしないであろう
というわけではないと思います。
人によっては(私のように)
なぜか転転とする人生を歩む場合もありますし、
生まれた場所に住んだまま、
ずっとそこで一生暮らす人もいます。
さらに「その先」の道が続いている人も
少なくないだろうと思います。
ただ、物理的に、あるいは精神的に、
あなたは自分の生活史の中で
一つの大切な場所に向かって今、
旅をしつつある、ということは
言えるのではないかと思うのです。
2011年頃から
あなたは周囲の人々との間に
突然の別離や心理的な分離を経験してきたかもしれません。
それはたとえば、
人の庇護下から抜けて自立することや、
新しい人々との出会いを探すこと、
あるいは自分独自の自由なフィールドを切りひらくような、
発展的な体験だったはずです。
そこには刺激と喜びが溢れていただろうと思うのですが
その一方で、
人の心との密着を信じ、
人に守られるような思いは、
味わえなかったかもしれません。
周囲の人々と時空を共有し、
共感し、心を融合し、
ある場所や人間関係の中に深く根を下ろしている
という実感は、感じにくかったかもしれません。
そうした、人間関係における「分離・分解」の時間が、
2019年、終わりを告げます。
過去7年ほどの中で感じていた、
あらゆる人とのあいだにある距離感が消え、
人間同士の間に生まれる
「切っても切れないもの」の手応えを
新たに感じられるようになるでしょう。
お互いのあいだに血管のようなものが繋がっていて
それを切るということは、
お互い自身に傷をつけるということだ
と感じられるような、
密接な交わりと融合を、
ここから少しずつ、
取り戻していけるでしょう。
この「人間的融合の回復」のプロセスもまた、
前述の「帰るべき場所への旅」と、韻を踏んでいます。
「帰るべき場所」に根を下ろしたあと、
私たちはそこから容易に離れられなくなります。
たとえ、何十年も漂泊の旅を続けた経験があったとしても
「根を下ろした」あとは、
もはや、元の流浪の旅に戻ることは
非常に難しくなってしまいます。
根を下ろす、ということは、
他者と分かちがたい関係を結ぶことであり、
他者の人生を少しずつ、引き受けて、
自分自身の人生を少しずつ、分け与えることだからです。
いったんそうした関わりを結んでしまえば
改めてそれを断ち切るには
血を流さなければならなくなります。
これは勿論、比喩に過ぎませんが
あなたはそうした、
血肉を分かち合うような関わりでできた世界を
このあたりから、目指そうとしているようです。
あるいは、そうした関わりに縛られることを好まない人であっても、
そうした関わりの意味や価値を
新しい形で捉えられるようになるのかもしれません。
2019年は、天秤座の人々にとって
旅と学びの年、ということができます。
「旅」と言えば未知の世界への冒険のイメージが浮かびます。
「学び」と言えば新しい知識の習得を連想させられます。
ですが、2019年のあなたの旅と学びは
決して「未知の世界」に関するものばかりではありません。
むしろ、ここでの「旅」と「学び」は
あなたのごくパーソナルな生活史に直結しています。
この時期のあなたは、
豊かなコミュニケーションや頻繁な移動、
たくさんの情報収集を通して、
自分がどんな世界に住んでいるのか
ということを知るでしょう。
自分が今、世界のどこにいるのか、
人生のどの辺りを歩いているのか、
ということを、
考えていくことになるでしょう。
その答えの片鱗が、おそらく、
2019年の終わりあたりに見つかるでしょう。
ここで見つかる「答えの片鱗」は、
あなた一人にだけ意味のあるものではなく、
あなたのすぐ側にいる人々と
共有できるものなのだろうと思います。